「黒牛の里」取締役 市野 喜啓さん|知多牛から広がる6次産業で地域の”農”を守りたい

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岩滑地区を中心においしい知多牛や新鮮な乳加工品が食べられるお店「ファームレストラン黒牛の里」や焼肉レストラン「黒牛の里」などを経営する、株式会社黒牛の里取締役、市野 喜啓さんにお話を伺いました。

 

「黒牛の里」について

知多半島の酪農を育てるブランド牛、「知多牛」を広めたい。

「黒牛の里」は、1998年に焼き肉レストランとして始まりました。
知多牛の評価を高めるため、知多牛のおいしさを広めるために酪農家グループとして経営を始めたんです。
松坂牛のように、地域の人にも知多半島に酪農家がいて知多牛がいることを誇りに思ってもらえるようにできればと。

そこから、18年経ちまして、一定の評価を得られるようにはなってきたかなと思います。
その黒牛の里のブランドを生かして、新規事業として、
2014年にファームレストラン「知多牛」を開店しました。
ここでは、知多牛を使ったソーセージなどの加工品や、新鮮な生乳を使ったチーズやヨーグルトなどの乳製品、地元の野菜を使ったメニューを提供しています。2015年からはBBQガーデンを始めました。
地産地消型の農家レストランとして、知多半島の食の魅力を発信する6次産業の拠点を目指しています。

 

焼肉 黒牛の里 ファームレストラン黒牛の里

焼き肉レストラン「黒牛の里」とファームレストラン「黒牛の里」(バーベーキューガーデン)

 

「知多牛」の魅力 ”味は贅沢に、価格は手頃に。”

知多牛(あいち知多牛)には「誉(ほまれ)」「響(ひびき)」などいくつかブランドがあるのですが、「誉」は黒毛和牛種のブランドです。
ここでは「響」について話をしますね。

「知多牛(あいち知多牛)」は、乳牛であるホルスタイン種に黒毛和牛を掛け合わせた、交雑種(F1)です。
交雑種である知多牛は、乳牛と肉牛の良いところを合わせることで、高品質の牛肉となります。
両方の品種のいいところを受け継いでいて、病気に強く成長が早く、かつ肉質がよくなります。

出産してとりあげるところから育てることで、飼料などもすべて管理できるので品質の管理もしやすくなりますし、自信を持って出荷まで一貫でできるというところもメリットしてあります。

日本では、いわゆる霜降り肉など、牛の脂が好まれていたのですが、最近ではもう少しさっぱりした牛肉も人気になっています。そうしたなかで、知多牛は、脂に甘みがあってさっぱりしているといわれます。
胃にもたれにくくて旨みが多く、食べやすい牛肉として評価されています。
それから、ブランド和牛に比較すると、まだまだ買いやすい値段ということもあって、認知されるとともに徐々に値段も上がってきています。

 

黒牛 牧場

dsc05990 飼料

 

6次産業化への思い

酪農を中心とした経済圏として成立させたい。

先ほどお話しした、徐々にブランドとして認知と人気が高まって知多牛の値段が上がるという話は、生産者としてはもちろん嬉しい部分もあるのですが、レストランや焼肉店の経営者としては苦しい部分でもあるんですね。
「黒牛の里」では、全出荷頭数の2割しかとれない4等級以上の知多牛を仕入れているのですが、知多牛の価格は仕入れの値段に直結していますので、店頭でお出しする際に跳ね返ってきてしまうんです。

牛肉というのは少し変わっていて、生産直売ということができないものなんです。
生産者としては一度、大阪や名古屋の市場に出す必要があって、それをまた買い付けるという流れになっているんですね。
そうすると、どうしても原価の値段があがってきてしまう。
肉だけを中心にしていると、評価が高まるほど儲からなくなってしまうんです。

 

そうしたところで、レストランとしては、乳製品や加工食品、体験農園型のレストランにすることなどで高付加価値化していかないといけない。

それから、今後、日本はどんどん高齢化して、人口も減っていきます。
内需が減るということで、お客さんの人数にも当然反映されます。
海外からのお客さんや海外向けの展開なども含めて、時代に合わせた展開も行っていかないといけないと考えています。
地元の農業や雇用を守るためにも、自力をつけて、持続していけるように、いろいろなチャンネルを持っておく必要があると思います。

ですので、「黒牛の里」のゆくゆくの夢というか目標としては、農業を中心に産業を広げていくこと。
酪農を中心とした経済圏として成立させたい。
そう思っています。

 

ホルスタイン乳牛(ホルスタイン)

 

6次産業化に向けた取り組み

私の理想としては、ずっと6次産業化を進めたいというのはあったんです。
特にファームレストラン「黒牛の里」を出店するときには、強くそう考えていたんですが、最初はなかなか、知多牛のレストランだということから離れられなかったんですね。
スタッフからすると、本店時代からのお客さんもきてくれて繁盛していて毎日忙しいし、6次化といってもなかなか理解が進まなかったんです。
ありがたいことなんですが、スタッフの理解よりも先にお客様がついてしまった。
それが最近ようやく、敷地内にバーベキューガーデンを作ったり、トウモロコシをお客さんが収穫できる畑を作ったり、「CLASS」という植物とガーデン雑貨のお店を併設していく中で、”こういうことだったのか。”という感じで、働いてくれるスタッフの中でもしっくりきた感じがしています。

そういう意味では、やっとここからスタートできるかな。

 

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多肉や観葉植物、ガーデン雑貨を扱う「CLASS」。スムージーやフレッシュジュース等の販売も。(ファームレストラン「黒牛の里」敷地内)

 

でも、急激に進めることが良いと思っているわけではないのです。
うちは広告も出していないし、即効性を求めて何かをするということはやっていないんです。
三重県の松坂には「みさき屋」さんという焼肉屋さんがあって、そこに「ぼつ焼き」というのがあります。
それだけを目当てに遠方からお客さんがたくさん来る人気商品なのですが、いつかは「ぼつ焼き」のような名物があって、そういうヒット商品を目当てに来ていただけるというようなところも必要だとは思っています。

 

ただ、それまでには、人材も育たないといけないし、いろいろなことや新商品を試しにやってみて、お客様からのフィードバックをいただきながら、徐々に育てていければいいと思っています。
繰り返し来ていただいているお客様の信頼を裏切らないように、お客様の層も急に変わったりしないようにしながら、自信を持ってお出しできる水準のものだけを大切にご提供していきたいんです。

お客様に私どもの考えを理解していただき、そうすることでスタッフもスムーズに育つという循環ができていく。そういうかたちが理想です。

 

 

地域への思い

今のようなレストランだけだと、お客様に滞在していただける時間は2時間ぐらいかもしれない。
それが体験農園があって、周囲のお店とも行き来できて、矢勝川でジョギングしていただいたり、サイクリングなどを楽しんでいただいたり、アグリ・ツーリズムのようなかたちになったりしていく。
そうすると、半日、1日と楽しめるエリアになっていく。
一つ一つコンテンツを作って体験をつなげていくことで、そうなっていけばいいと考えてます。
そのきっかけとして、「黒牛の里」を育てていきたいと思います。

「黒牛の里」としては、今、お客様が収穫したものを使って、体感しながら楽しんでいただけるグリルガーデンやジェラートショップを準備しています。
レストランや焼肉店では一方通行のご提供だったのですが、これからは、採ってトッピングしてという、調理から参加するような、体験のあるお店づくりも進めています。

 

取材を終えて

末松さんと続けてお話を伺って、岩滑は元気だなと感じるのは、こういう方の力がまちに伝わっているのかも…。
市野さんには経営者としてのエネルギーがみなぎっていて、危機感を持って取り組んでいけば、きっと物事は良くなると思えました。

 

「黒牛の里」の特徴を3つにまとめると…

  • 知多半島のブランド牛「知多牛」を育て、魅力を伝えるために酪農家自身が協力して始めたお店
  • 現在は知多牛だけでなく、地域の農業を守っていくための6次産業化を進めている
  • 即効性を求めず、お客さんやスタッフ、地域とのつながりや信頼を大切にしながら、一つ一つの課題に取り組んでいる

 


Farm restaurant(農家レストラン) 黒牛の里

http://www.kuroushi.net/

半田市岩滑西町2丁目48-127 ※本店近く「パンのトラ」さんの西側
TEL(0569)89-8629

 

溶岩焼(焼き肉)黒牛の里 半田店

http://www.kuroushi.net/

愛知県半田市岩滑西町4丁目109-1 ※知多半島道路半田中央IC南・南吉記念館前
TEL(0569)23-8672

 

※知多牛のお話は、牧場編に続きます(近日公開予定)

 


おまけ1: “6次産業”って何で”6次”なの?

6次産業という言葉を耳にすることがあると思います。
1次産業である農林水産業が、農林水産物の生産だけにとどまらず、加工食品の製造・流通・販売や観光農園のような地域資源を生かしたサービスなどの2次産業や3次産業にまで踏み込むことで、付加価値を生んでいくことを6次産業と言います。

1次+2次+3次産業ということで、6次産業と呼んでいるんですね。

 

おまけ2: 知多半島の酪農の特徴と歩み

知多酪農発祥地

知多半島は非常に酪農の盛んな地域です。乳牛や肉牛のほか、養豚や養鶏などの飼育が盛んに行われています。
乳牛では、一戸当たりの飼養頭数が日本一を誇り、高い飼育技術を誇っています。

1881(明治14年)頃、ミツカンの創業家である4代目中埜又左エ門氏が、自家の飲用に滋養と健康の目的で乳牛を購入したのが、きっかけとされています。その後、半田駅南東一帯に牧場を開き本格的に酪農を始め、瓶詰めの「ミツカン牛乳」として販売を開始しました。これが人気を呼び、乳牛を飼育する人が半田市内を中心に増加し、知多半島全体で盛んになりました。現在では酪農の一大産地へと発展しています。
これを記念して、JR武豊線の半田駅前に「知多酪農発祥之地」として記念のレリーフが残されています。
(ちなみに、甥の盛田善平氏と丸三麦酒醸造所を設立し「カブトビール」ブランドでビール醸造を始めたのもこの4代目中埜又左エ門氏の時代です。すごい方ですね。)