【 新美南吉の言葉と風景 】作品紹介『 でんでんむしのかなしみ』

『でんでんむしのかなしみ』

いっぴきの でんでんむしが ありました。

ある ひ その でんでんむしは たいへんなことに きが つきました。

「わたしは いままで うっかりして いたけれど、わたしの せなかの からの なかには かなしみが いっぱい つまって いるではないか」

この かなしみは どう したら よいでしょう。

でんでんむしは おともだちの でんでんむしの ところに やって いきました。

「わたしは もう いきて いられません」と その でんでんむしは おともだちに いいました。

「なんですか」 と おともだちの でんでんむしは ききました。

「わたしは なんと いう ふしあわせな ものでしょう。わたしの せなかの からの なかには かなしみが いっぱい つまって いるのです」

とはじめの でんでんむしが はなしました。

すると おともだちの でんでんむしは いいました。

「あなたばかりでは ありません。わたしの せなかにも かなしみは いっぱいです。」

それじゃ しかたないと おもって、はじめの でんでんむしは、べつの おともだちの ところへ いきました。

すると その おともだちも いいました。

「あなたばかりじゃ ありません。わたしの せなかにも かなしみは いっぱいです」

そこで、はじめの でんでんむしは また べつの おともだちの ところへ いきました。

こうして、おともだちを じゅんじゅんに たずねて いきましたが、どの ともだちも

おなじ ことを いうので ありました。

とうとう はじめの でんでんむしは きがつきました。

「かなしみは だれでも もって いるのだ。わたしばかりでは ないのだ。わたしは わたしの かなしみを こらえて いかなきゃ ならない」

そして、この でんでんむしは もう、なげくのを やめたので あります。


このお話は、上皇后美智子様が紹介されたことでも知られています。上皇后美智子様は講演の最後を、子供達が人生の複雑さに耐え、それぞれに与えられた人生を受け入れて生き、この地球で、平和の道具となっていくために、子供達と本(言葉)を結ぶ仕事を続けて欲しいという内容で締めくくっています。


南吉作品ゆかりの地と撮影場所

作品に関連するゆかりの地と撮影場所をご紹介します。

新美南吉記念館

ごんぎつねの舞台となった地に建つ新美南吉記念館。

景観を生かすため、地下に造られている。

せせらぎの小径

新美南吉記念館の南に位置する童話の森。

「せせらぎの小径」には南吉の世界をイメージしたアート作品が並んでいます。

デンデンムシノカナシミの碑

撮影場所 新美南吉記念館の芝生広場の一角に立つでんでんむしのかなしみの碑。

平成22年6月15日、当時の天皇皇后両陛下が新美南吉記念館をご訪問くださった際もご覧いただいた場所です。

photo by 吉田 雅彦(知多デザイン事務所)