300万本の彼岸花を育てる「矢勝川の環境を守る会」|会長 榊原幸宏さん

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矢勝川沿いを埋め尽くす、300万本を超える真っ赤な彼岸花の風景。
秋の半田市では「ごんの秋祭り」も開催され、今では多くの人が楽しんでいます。
この一面を赤く染める彼岸花はたった1人の思いと、それに賛同した人々の取り組みから生まれたものです。
矢勝川の彼岸花の風景を育ててきた「矢勝川の環境を守る会」について、会長の榊原幸宏さんにお話を伺ってきました。

 

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「矢勝川の環境を守る会」会長の榊原幸宏さん(奥)

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彼岸花の風景の父、小栗大造さん

この彼岸花の風景は、遠い昔から自然にあったものではありません。

1990(平成2年)、新美南吉顕彰会で広報を担当していた小栗大造さんが、新美南吉の描いた作品の風景にちなんで、南吉さんの歩いた矢勝川の堤防をごんぎつねに描かれた赤い布のように真っ赤な風景にする計画を思いつきました。
(ちなみに顕彰=隠れた善行や功績などを広く知らせること、だそうです。南吉さんの功績を広める会、ということですね。)

「お午がすぎると、ごんは、村の墓地へいって六地蔵さんのかげにかくれていました。
いいお天気で、遠く向うにはお城の屋根瓦が光っています。
墓地には、ひがん花が、赤い布のようにさきつづけていました。」 『ごんぎつね』より

彼岸花はもともと日陰やあぜ道にひっそりと咲く花で、球根で少しずつ大きくなり、ひとりでに一面が群生地になることはほとんど起こらないのだそうです。
それを多くの他の植生、特にススキやセイタカアワダチソウなどと競合する明るい堤防に広げていくには、人の手を借りる必要があります。

初めは小栗さんがただ一人で草刈や彼岸花の球根を補植することから始まった活動も、そこから徐々に手伝う人が増え、「矢勝川の環境を守る会」(1995年発足)へと発展していきました。

 

矢勝川の環境を守る会

dsc08978 矢勝川の環境を守る会

「矢勝川の環境を守る会」の活動内容

彼岸花を増やしながら矢勝川の景観を守っていくためには、ほぼ一年中何らかの作業が必要になります。

矢勝川沿いの堤防全部と周辺の草刈り、球根の株分けなどを毎日行っていて、毎週月曜から金曜の午前中、土日祝日と年末年始やお盆以外は休みなく活動をしています。
暑い時期には早朝5:30頃から8:30頃まで、それ以外の時期は8:30から11:00くらいまで作業をしているとのことです。

阿久比町側には阿久比部会があり、それ以外にも個人的に草刈りをしたり花を植えたりといった活動を自主的にしている人たちもいて、協力して矢勝川の風景を守っています。

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矢勝川の阿久比町側でもさまざまな人がこの地域のための活動しています。

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彼岸花の芽と球根

 

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彼岸花の葉っぱは、比較的濃い緑色の葉の中心に薄緑のラインが入ります。
白い彼岸花のほか、少し変わった園芸品種なども所々に植えています。

 

 

彼岸花の一年

彼岸花は、秋に一斉に花茎を伸ばしたのちに真っ赤な花をつけ、花と花茎が落ちたあと、10月頃から緑の葉が茂り始めます。
晩秋から5月ごろの間に養分を球根に蓄えて、夏には他の草々の下に隠れて休眠し、また秋に花を咲かせます。

この彼岸花を増やしていくためには、人の手で株分けをする必要があります。
また、翌年綺麗な花をつけてもらうために、花が落ちたあとから葉っぱが伸びてくる前に別の草などに隠れてしまわないように草を刈り、日当たりを良くしてやる必要があります。
花茎が伸びてくる前にも、来る人が見やすく美しい花が咲くようにと、草を刈っています。
それ以外にも、矢勝川周辺の草刈りや遊休農地の保全を兼ねたマツバボタンの栽培なども行っています。

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マツバボタンと秋祭りでの彼岸花案内所

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「矢勝川の環境を守る会」の現在

小栗大造さんを始め、当初から彼岸花を増やすための活動を支えていたのは、地域のご高齢の方が中心でした。
当初は遠方の方も含めて、多くの人が手伝っていたそうですが、徐々に参加人数は減ってきているそうです。
活動を始めた時には70代だった人たちが徐々に活動できなくなってきていて、「代わりに”若い人”(60代前半でもここでは元気な若手です)が来てくれればねぇ(笑)」とのことでした。

今は日常的に半田市側の堤防で活動しているコアのメンバーは10人にも満たないそうで、阿久比町や自主的に活動している人を合わせても約30人ほど。
現在活動している人たちも最高齢は89歳になるという三井さんを筆頭に、ご年配の方ばかりです。
(とはいえ、みなさん気力が満ちている感じで、お元気そうに見える方ばかりでした。)

 

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以前はこのアワダチソウが生い茂る畑も整備していたのですが…。

メンバー以外では、地域の子供達や学生さんや地域貢献として企業の人たちが団体で時々手伝いに来てくれるとのことです。
ただ、スポット参加で慣れない人がたくさん来てくれてもやりきれないこともあり、コアのメンバーが減っていったり年齢を重ねていくと、徐々に手が回らなくなってしまうそうです。
「以前は周囲まで綺麗に草を刈ったり手入れをしていた時期もあるのだけど…。」とメンバーの方は残念がっていました。

 

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取材して思ったこと

美しい彼岸花の風景。
何となく徐々に増えていて、誰かが管理しているんだろうなーと漠然と思っていました。

矢勝川の彼岸花に限らず、花が名物となっている観光地に行くと「今年は咲き揃ってなくていまいち」だとか「案内看板がわかりにくい」とか、つい思ってしまうことがあります。

でも、岩滑にときどき来るようになって、父親よりも年長の人たちが毎朝早朝から山ほどの草を刈ったり、腰を曲げて球根をより分ける姿などを見かけると、ありがたい気持ちでいっぱいになり、他のところでもきっとそうなのだろうと、これまでのお客様気分だった自分の想像力のなさを恥ずかしく思いました。

小栗大造さんや活動について話を聞いていて、思い出した話があります。

大学生だった頃の教授が、好きな作品としてカナダのフレデリック・バック制作の「木を植えた男」というアニメーションを見せてくれました。
(スタジオジブリから発売されています。)

 

もともとは短編小説だそうです。
少し長くなりますが、あらすじはこんな感じです。

「木を植えた男」あらすじ

あてもなく旅する若い男が荒野で初老の男と出会い、一夜の宿を借りる。
その男(エルゼアール・ブフィエ)は黙々とドングリを選別し、良いドングリだけを選んで植え続けている。

1日男に同行し、妻子をなくし特にすることもないので、この荒地を蘇えらせたいのだとを聞き、若い男はその翌日に別れる。

やがて戦争が始まり、若い男はそのことをしばらく忘れてしまう。

戦争が終わりを向かえ、久々に荒野を訪れると、男は戦争の到来も気にもとめず、同じように毎日ドングリを選別して植えていた。
木々はすでに荒地を覆う森となっており、その中を歩き、若い男は感銘を覚える。

木々が木材としての伐採にあったり、植えていた楓が全滅したりといった出来事にも気落ちせず、男は1人、木を植え続ける。
男の功績だとは知らず、「森林保護官」が訪れて、”自然に復活した”森に感嘆し、「森を破壊しないように」と告げたりするが、男は気にせず、いつでも黙々と常に木を植えている。

そしていつしか森は大きく広がり、見渡す限りを埋める。
荒地に水が戻ってくる。

美しく清らかな森に恵まれた土地としてやがては入植者が現れ、人々の生活が始まる。
しかしそこに住む誰もが、その森が1人の人間の手によって作られたものだとは知らない。

おおよそ、こんなお話です。鉛筆画の素晴らしいアニメーションです。
(レンタルなどもたまにあるようですので、できればDVDなどでご覧ください。どうしても気になる方はこちら。)

学生時代に観た際には、1人の人間が継続することでなし得ることの力や富や名声にとらわれない活動の意味、みたいなことを感じました。

取材・撮影:吉田雅彦

 

矢勝川の環境を守る会

多くの人が訪れる矢勝川を見て、彼岸花を育てたり、周囲の風景を守る方々の話を聞いて、ひさしぶりに同じ思いを抱きました。
しかしこういうものは、誰かが続けていかなければ、いずれ消えてしまうものでもあります。

これを読んだ方の「矢勝川の環境を守る会」への参加やご協力、あるいはメンバーの方に感謝・感心の気持ちを伝えてもらえたら、と願っています。