【プロジェクト】新美南吉 蛍の里 -木の祭りの世界-
新美南吉 蛍の里
今ではすっかり見られなくなった蛍。
新美南吉のふるさとの岩滑も同様です。
新美南吉記念館の奥にある谷地はかつて3枚の棚田があった場所。
毎年たくさんの蛍が乱舞する場所でした。
この場所をもう一度蛍がすめるような場所に戻そうと9年前から活動を進めてきました。
活動の中心は岩滑の蛍おじさんこと、土本修二さん、一年中、この地の整備に尽力いただいています。
少しずつですが、蛍が自生できる環境が整ってきました。
今年も岩滑小学校の4年生と一緒に蛍の幼虫の放流。
環境整備は、地元企業、ごんのふるさとネットワーク、新美南吉記念館など、皆で手作業です。
今年はコロナ感染拡大の影響で”南吉さんの蛍まつり”は中止。
来年は楽しんでいただけるように環境整備を続けます。
過去の観察会の様子
蛍の里の活動は、新美南吉さんの「木の祭り」の世界観をテーマに進めています。
新美南吉は、自らの作品にランプや提灯、蛍などの「灯り」を好んで描きました。
この「灯り」は、南吉さんの希望であり、自らの作品もまたこの世の闇を照らす「灯り」でありたいと願ったのだと思います。
木の祭り
新美南吉
木に白い美しい花がいっぱいさきました。木は自分のすがたがこんなに美しくなったので、うれしくてたまりません。
けれどだれひとり、「美しいなあ」とほめてくれるものがないのでつまらないと思いました。木はめったに人のとおらない緑の野原のまんなかにぽつんと立っていたのであります。
やわらかな風が木のすぐそばをとおって流れていきました。その風に木の花のにおいがふんわりのっていきました。
においは小川をわたって麦畑をこえて、崖っぷちをすべりおりて流れていきました。そしてとうとうちょうちょうがたくさんいるじゃがいも畑まで、流れてきました。
「おや」とじゃがいもの葉の上にとまっていた一ぴきのちょうが鼻をうごかしていいました。
「なんてよいにおいでしょう、ああうっとりしてしまう。」
「どこかで花がさいたのですね。」と、別の葉にとまっていたちょうがいいました。
「きっと原っぱのまんなかのあの木に花がさいたのですよ。」
それからつぎつぎと、じゃがいも畑にいたちょうちょうは風にのってきたこころよいにおいに気がついて、「おや」「おや」といったのでありました。
ちょうちょうは花のにおいがとてもすきでしたので、こんなによいにおいがしてくるのに、それをうっちゃっておくわけにはまいりません。
そこでちょうちょうたちはみんなでそうだんをして、木のところへやっていくことにきめました。
そして木のためにみんなで祭りをしてあげようということになりました。
そこではねにもようのあるいちばん大きなちょうちょうを先にして、白いのや黄色いのや、かれた木の葉みたいなのや、小さな小さなしじみみたいなのや、いろいろなちょうちょうがにおいの流れてくる方へひらひらと飛んでいきました。
崖っぷちをのぼって麦畑をこえて、小川をわたって飛んでいきました。
ところが中でいちばん小さかったしじみちょうははねがあまりつよくなかったので、小川のふちで休まなければなりませんでした。
しじみちょうが小川のふちの水草の葉にとまってやすんでいますと、となりの葉のうらにみたことのない虫が一ぴきうつらうつらしていることに気がつきました。
「あなたはだあれ。」としじみちょうがききました。
「ほたるです。」とその虫は眼をさまして答えました。
「原っぱのまんなかの木さんのところでお祭りがありますよ。あなたもいらっしゃい。」としじみちょうがさそいました。ほたるが、
「でも、私は夜の虫だから、みんなが仲間にしてくれないでしょう。」といいました。しじみちょうは、
「そんなことはありません。」といって、いろいろにすすめて、とうとうほたるをつれていきました。
なんて楽しいお祭りでしょう。ちょうちょうたちは木のまわりを大きなぼたん雪のようにとびまわって、つかれると白い花にとまり、おいしい蜜をお腹いっぱいごちそうになるのでありました。
けれど光がうすくなって夕方になってしまいました。
みんなは、「もっと遊んでいたい。だけどもうじきまっ暗になるから。」とためいきをつきました。
するとほたるは小川のふちへとんでいって、自分の仲間をどっさりつれてきました。一つ一つのほたるが一つ一つの花の中にとまりました。
まるで小さいちょうちんが木にいっぱいともされたようなぐあいでした。
そこでちょうちょうたちはたいへんよろこんで夜おそくまで遊びました。
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